MENU
Magazine
2024.07.09

パリ五輪とCNSと今日の暑さについて|情報センター副所長 中澤 仁

もうじきパリ五輪が開催されます。そして先日、環境情報学部4年の豊田兼君が陸上競技400メートルハードル走で代表に内定しました。6月28日の日本選手権でマークした記録は日本歴代3位とのことで、これからの大活躍が期待されます。SFCからはこれまで何人もの学生がオリンピックに出場して、学問と競技の両立を成功させてきました。私は体育会競走部の部長をしていて、たまに部員と研究の話をすることがあります。そうしたときに、競走部の練習とSFCでの学問との両立がいかに大変か、ということに改めて気付かされます。グラウンドは日吉にあって、SFCには湘南台駅からバスに乗らないと辿り着けませんので、移動だけで毎日それなりの時間がかかってしまいます。当然ですが、授業で出される課題は練習スケジュールとは同期していないので、自己管理をしっかりしないと競技も学問もうまくいかなくなってしまいます。100人以上の競走部員たちには、そのように中身の詰まった毎日を過ごしているという点で、頭の下がる思いです。

そんな中で、今世紀に入ってからの情報技術の進展は、学生の活動の幅をとても大きくしつつあります。昔のSFCではκ、ε、ι、οの各棟に特別教室があって、大きなワークステーションが置いてありました(下図)。Mac OSとかWindowsとか軟弱なものは(一部を除いて)なく、UNIXオペレーティングシステムの上でX Window Systemが動いていました。これを使ってLaTeX(ラテフと読みます)でレポートを書き、印刷して事務室の箱に提出するのです。膝の上にどっしり置いて使うイメージの「ラップトップパソコン」は、重いくせに画面が小さく処理が遅くて、あまり使い物になりませんでした。だから学生は、SFCでワークステーションを使ってレポートを書くしかないのです。そもそも自宅からインターネットに繋げるときには14Kbpsくらいしか出ませんでした。Kbpsが何の単位かわからない、という人もいるかもしれません。K(キロ)はG(ギガ)の100万分の1で、bpsはネットワークの速さの単位です。でも、これらが当時の世界最先端技術で、SFCはたくさんの世界最先端が集まったキャンパスだったのです。


今はどうでしょう。スマートフォンは25年前の最速スーパーコンピュータと同じくらいの性能です。ノートパソコンはそれよりずっと高性能ですし、ネットワークに至ってはG(ギガ)が普通になりました。無線LANや携帯電話網を通じてどこにいてもインターネットにつながりますから、大学の授業やレポートの作成、あるいはグループワークでさえ、どこでもできるようになりました。もしかしたら、世界一周旅行をしながらオンライン生活だけで1年間休学せずに「キャンパスライフ」を送れるかもしれません。こんなふうに世の中がSFCに追いついた結果、ここは湘南の普通なキャンパスになっています。そこで、これからも学生が世界最先端の体験を得られるようにするために、SFCに何があると良いか?ということが大きな課題になります。量子コンピュータとか、超高速GPUとその上で動く大規模AI、SFC全体を取り込んだ三次元仮想空間など、できてもよさそうなことがたくさんあって、湘南藤沢KICでは具体的な検討を始めます。皆さんは、どんなものがあると良いと思いますか?

さて、今日は暑いです。朝、車で大学に来る際に、車外の気温が36℃と表示されていました。まだ9時半くらいのことです。温度センサーが壊れたのかと思うほどですが、今日は「熱中症警戒アラート」が気象庁と環境省から発表されていますから、日向のアスファルトの上では無理もありません。これに加えて今年度からは「熱中症特別警戒アラート」というものが導入されています。熱中症予防情報サイトによれば、熱中症特別警戒アラートは「自分の身を守るためだけでなく、危険な暑さから自分と自分の周りの人の命を守ってください!!」という趣旨のようです。命に関わるほど暑くなってくると、南の島の大王の歌ではありませんが、暑すぎる日はお休み、でなくても授業はオンライン開催というのが合理的と感じます。このような日常の柔軟性を支えながら、私たちに新たな創造力を発揮させてくれるような環境を、みなさんで妄想しましょう。

中澤 仁 情報センター副所長/環境情報学部教授 教員プロフィール